札幌地方裁判所 昭和61年(わ)774号 判決 1987年1月30日
国籍
韓国
住居
岩見沢市一条西五丁目一番三号
遊技場経営
広村和子こと
朴水徳
一九一五年三月八日生
国籍
韓国
住居
岩見沢市一条西五丁目一番三号
遊技場従業員
広村守男こと 李守男
一九五五年一〇月八日生
右両名に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官武田みどり及び弁護人日浦力各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人朴水徳を罰金一、六〇〇万円に、被告人李守男を懲役一年六月に処する。
被告人朴水徳においてその罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置す。
この裁判確定の日から、被告人李守男に対し三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人朴水徳は、岩見沢市一条西五丁目一番三号に居住し、同所ほか一か所において遊技場(パチンコ店)「共楽会館」ほか一店を経営するもの、被告人李守男は、被告人朴水徳の四男で、同女の従業者として、その営業全般を掌理しているものであるが、被告人李守男は、被告人朴水徳の業務に関し、その所得税を免れようと企て、前記「共楽会館」の売上金の一部を除外して架空名義の普通預金口座に入金するなどの方法によりその所得を秘匿した上
第一 昭和五七年分の実際総所得金額が一億四五七万五、〇五九円であり、これに対する所得税額が六、三二九万六、五〇〇円であるにもかかわらず、同五八年三月一一日、同市二条東四丁目五番地の一所在の岩見沢税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が六〇八万六、〇〇〇円であり、これに対する所得税額が七〇万五、一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額とその申告税額との差額六、二五九万一、四〇〇円を免れ、
第二 同五八年分の実際総所得金額が二、六七五万六、二一九円であり、これに対する所得税額が一、〇一二万三、九〇〇円であるにもかかわらず、同五九年三月一一日、前記岩見沢税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が四五六万六、七〇〇円であり、これに対する所得税額が五〇万六、七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額とその申告税額との差額九六一万七、二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人両名の当公判廷における各供述
一 被告人朴水徳及び同李守男(六通)の検察官に対する各供述調書
一 被告人朴水徳(昭和六〇年五月一三日付を除く五通)及び同李守男(一一通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 被告人両名連名の上申書二一通(税理士熊谷省吾作成)及び被告人広村和子こと朴水徳の上申書一通(税理士熊谷省吾作成)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書
一 大蔵事務官作成の調査書二七通
一 大蔵事務官作成の調査事績報告書
一 押収してある昭和五五年分から昭和五九年分までの確定申告書綴一綴(昭和六一年押第二五〇号の1)及び白色申告者書類つづり一綴(昭和六一年押第二五〇号の2)
(法令の適用)
被告人李守男の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、同被告人の判示各所為は、同被告人が被告人朴水徳の従業員として同被告人の業務に関して犯したものであるから所得税法二四四条一項により被告人朴水徳に対し同法二三八条所定の罰金刑を科することとし、判示各罪は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人朴水徳を罰金一、六〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、被告人李守男については情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑を猶予することとする。
(量刑について)
本件は、脱税額も相当多額にのぼり、ほ税率も平均約九八・三パーセントと極めて高く、その態様も売上金の一部を架空名義の預金口座に隠匿するという悪質な事犯であるところ、被告人李は本件犯行の実行行為者、被告人朴は経営者でありながら営業のみならず所得税の申告も被告人李に全面的に委ね、同被告人が売上を除外するなどして所得税の過少申告をしていることを知りながらこれを黙認していたものであり、被告人らの刑事責任は誠に重いものといわざるを得ないが、他方被告人李が本件脱税に及ぶについては、被告人朴の老後のため、ひいては被告人李ら兄弟のために少しでも多くの財産を残しておきたいという利己的な動機によるものであるが、在日韓国人という被告人らの境遇を考えればその動機に若干憫諒すべきものがあり、被告人らは本件の摘発を受けるや素直に調査に協力し、反省の情を示しており、また既に修正申告を済まして本税、重加算税及び延滞税を納付済みであり、かつ、専ら被告人らの責に帰すべきものとはいえ、事業投資に失敗し脱税した利得の大部分を失っており、さらに、本件が大きく新聞報道されるなど既に一定の社会的制裁を受けており、また、被告人両名にはこれまで前科前歴がないことなど被告人らのために酌むべき情状もあるので主文の刑を相当とした。(求刑被告人李に対し懲役一年六月、同朴に対し罰金二、〇〇〇万円。)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 西田元彦)